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微笑む彼女は目を合わせたくないほど冷たい瞳。残念ながら宙に浮かされてる俺は逃げることも隠れることもできない。
「いえいえ、そんな手間のかかることしなくても平気ですよ。時間も経てば自然乾燥しますって」
「あら、死後のことも考える余裕があるなんて立派ね。最近の人間にはなかなかいないわ」
「…………」
ダメだ、この人、俺を殺すこと前提で話す気だ。時間を稼ぎたいけど何を言っても意味がなさそうで、話すことも絶対そのうち飽きて突然殺されそうだ。
運が良かったのは宙に浮かされているけど体の自由がきくことくらいで、いざとなったらすぐに逃げることができる。……いざって時が来たら。
「それにしても珍しいわね、この国で赤髪なんて」
「赤髪?……あぁ、これか」
やっぱりここは異世界なのか?この魔法使いなら色々と知識を持っていそうだけど情報を得る前に殺される可能性が高い。
ムラサキナズナさんに助けを求めたいけど下の様子が見えない。俺を護ってくれたから被害も大きかったはずだ。……もっと力さえあれば足を引っ張らず済んだのに……。
「ムラサキナズナさん曰く、俺って異世界から来たみたいなんだ」
「異世界?あぁ、あなた裂け目に巻き込まれたのね。ようこそA世界へ、B世界の住人さん……ってとこかしら」
「裂け目を知ってるの?」
「えぇ。あまり興味はないけど、研究価値があったからある程度の知識なら持ってるわ」
「そ、それはホントっ!?」
「私は嘘が嫌いよ」
「な、なら教えて!あなたが知っている裂け目について!」
「嫌っ」
「ど、どうして!」
せっかく帰り道の裂け目の情報を得られると思えたのに即答だなんてあんまりだ!焦りと不安の俺に対し彼女は悪魔でも冷静な澄まし顔。
再び溜め息をつくと仕方ないように言った。
「どうもこうも私は自分勝手な人間が大っ嫌いなのよ。異世界の人間であろうと、今のあなたのような人間は特にね」
「…………っ!」
俺のような人間が?
「今こうして会話するだけでもヘドが出る。……お話は終わりよ」
ここなら黙視できる。下からはよく見えなかった魔導書を開くと辺りに幾つもの魔法陣を展開させた。色は赤。たぶん、さっきと同じ火属性の魔法。
クソッ、これ以上は無理か!だったらどうにかして逃げないと!
得意ではないが相性の良い青色の 魔法陣、水属性の魔法。扱えるのは初級程度しかないけど速さではこっちが上だ!
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