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初級魔法は苦手な奴でも簡単に扱えて詠唱がいらないのも多い。俺が使用するのもその魔法の一つ。相手の手の内が分からないのはこの魔法使いも同じなんだ!
だったら、詠唱なしの俺に先攻をとらしてもらうまでだ!
「【水流よ!】」
直線的な水流。俺程度の魔法だからローブやマントで覆えば簡単に防げる勢いだが、直で受ければ怯み、ローブで防いだり避けようとすれば隙ができる。
こんな接近してるんだ。障壁を張る暇なんて与えるものか!
「先手を与えたわりには魔法陣の構造が雑。なぜ詠唱をしなかった?魔法の発動が遅い。苦手魔法を使用してなんになるの?……異世界の人間はこんなもの?」
「なっ!?」
水流は一秒も経たないうちに魔法使いに直撃するはずだった。だけどすでに展開されていた魔法陣の一枚が彼女の前に展開すると水流を防いだ。
まさかのことだった。
魔法陣で魔法を防ぐなんて聞いたことがない。魔法陣は魔法を使用する際に補助の役割を担うものなのに攻撃や防御に使用するなんて……!
「私の番ね」
手を差し出すと魔法陣が一斉に輝いた。
「あなたは先をどうのこうのと考えて行ったようだけど、実力も戦略も全く足りない。……いいわ、あなたの考え通りに動いてあげる」
水流を防いでる赤の魔法陣も輝いた。ほんの少し、魔力をわずかに強めた程度だけ。だというのに俺の出す水流は渇れたように出てこなくなってしまった。
「一つ。相性なんて考えないこと。実力差くらい理解してたはずよね」
「うわっ!」
俺を囲む火のリングが消えると重力に逆らえず真っ逆さまに地面に向かって落下した。受け身をとってなんとか着地すると魔法使いは俺の足を指差していた。
「冷たっ!」
氷の楔。 楔は濡れている足を一瞬にして捕らえると地面一帯を凍らして冷たい氷の鎖で楔と地面を繋げた。
いくら引っ張っても外れはしない。ヒビも抜けることもだ。
「『夜の空。天を照らすは不死の霊鳥』」
「詠唱!?マズい、止めないと!」
あの魔法使いを止めるために魔法陣を展開させると一気に魔力を巡らせた。赤色の魔法陣、俺の得意とする火属性のものだ。
「二つ。魔法陣の構造が雑」
彼女が魔法陣を指差すと割れるように砕け散ってしまった。魔力を込めるのに失敗した訳じゃない。する訳がない。なのに跡形もなく、俺の魔法陣は消滅してしまった。
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