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光となって消えた魔法陣を目にしたことで手の震えが止まらない。自信のあった唯一の属性。あの魔法使いは赤子の指を曲げるよりも易々と破壊した。
「焦りと不安で展開された魔法陣はまともに魔力は巡らず、他者の魔力を介入させることでバランスを保てず陣は崩壊する。あなたの魔法陣が良い例ね」
「そんな……」
「三つ。魔法陣の展開から魔法の発動までの動作が遅い。魔導師や陰陽師など術式を使用する者は大小問わず、術を使用する際に必ず隙が生まれてしまう欠点がある。剣士や巫女といった中距離から近接戦を得意とする者にとって隙がある者はただの的」
ずっと学園で頑張ってきたのに、目の前にいるたった一人の魔法使いによって俺の全てが否定されていく。
「そしてなにより四つ。全てを支える詠唱をどうして破棄するの?」
「どうしてって……」
スペルと魔法は言わば大砲と弾のような関係。一部を除き魔法(弾)を放つためには大抵はスペル(大砲)が必要だけど、初級魔法はスペルと魔法のは同じ役割を成しているため必要としなかった。
そう言おうとしたのに、絶対的な実力差を見せられたためか自信がなくて口にできなかった。
魔法の基礎は世界共通。大人から子どもまで誰でも知っていることなのに彼女ほどの魔法使いが知らないだなんて、やっぱりここは異世界なんだろうか。だから同じ歳くらいなのに実力の違いがこんなに大きいのか……。
一文のみ詠まれたスペルは進むことのなく止まっていて、だけど彼女の魔法陣から魔力の流れが俺でも感じられる。赤く、一定の輝きを保ちながらもずっと安定している。
「私は必要としてないけど、詠唱は魔法を使用する際、自分の魔力を魔法陣へ安定して送りやすくできる。人間は忘れがちだけど魔法陣も魔法の一種。魔法陣は結構脆くて、あなたのように曖昧なものを展開させると使用する魔法や流す魔力に魔法陣が耐えきることができず破損や暴発など事故が起きる可能性が高くなる。だからこそ詠唱……つまり言葉にも魔力を浸透させて詠唱することで…………、……あなた、涙なんて流してどうしたの」
「……っるさい……うるっ…さい……!」
「…………」
言われなくたって分かってる。 分かってるよ!異世界に飛ばされたって薄々気づいてて、だけど認めたくなかった。認めたら耐えれる自信がないんだ!
あなたのような魔法使いに俺の気持ちが分かるわけないよっ!
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