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いくら涙を拭っても止まらず流れてくる。叫ぶことも魔法を使用することも、心は大きな不安や恐怖などで埋め尽くされた。学園でも何かに秀でていた訳じゃない。ただ普通で平凡な学生で変わっていたのは親が貴族だってことだけだ。
『完璧でなくてもいい。次期当主として生きる意味と世界について考えろ』そう言われて学園に入ったのに何も変わってないし学んでもいない。何にもできていない……。
「なに人間さんを泣かしてるのさ!」
「っ!?」
河の中から声が響いた。
驚いて振り向くと水飛沫をあげて這い上がったのはムラサキナズナさん。全身が水に浸っていたというのに全く濡れておらず、周囲には大小様々な水玉が浮かんでいる。
「もっと言い方ってものがあるでしょ!」
「私に求めないで。その子が勝手に泣き出しただけ」
「なにが勝手によ!その子はその子なりに頑張ってるし、だいたい魔女のノインと比べたらみんな似たようなものでしょ!」
彼女の怒りに合わせ水玉はノインさんへ一直線に発射した。勢いは完璧。水玉は目の前以外にも上下左右あらゆる方向からの全方位から襲いかかる。
大きさや発射されるタイミング、水玉の速さや隙あるところに的確に狙い撃つ集中力。なによりも水玉の一つ一つが綺麗で、弾かれたり防がれたりした時の水飛沫にまで目が奪われる。
「『仙翁――アグロ・ステンマ』」
けど、ノインさんも冷静だ。魔法陣の色が変わった瞬間、五枚の花弁を持つ紫色の花を幾つも出現させるとそれを盾として弾いている。
「うわはぁっ!」
見とれている場合でも泣いている場合でもなかった。弾かれて形を保った水玉が流れ弾で飛んできた。
「あっ、ご、ごめん人間さん!け、怪我はない!?」
「へ、平気平気……ちょっと避難しておくよ」
こんなところにいられるかい。
地面深く抉った水玉は見なかったことにして、おかげで楔から解放された俺はほふく前進でムラサキナズナさんのところまで移動。ノインさんに狙われないか不安だったけど全くどころか最初の一発から全くこなかった。
「私の後ろに隠れて!頑張って何とかするから!」
「ごめん……」
つい、謝ってしまった。
ムラサキナズナさんの背中を河から眺めていると少し辛そうだけどどこか楽しそうで、ノインさんも常に俺を監視しながら彼女の弾幕を防ぐ表情は同じように楽しそう。
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