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ムラサキナズナさんは先程展開した一回り大きく分厚い水壁を火の鳥と俺らの間に数枚出現させた。
「ぐっ」
衝突は一瞬だった。避けたり小細工したりすることなく真っ正面から迫ってきた火の鳥は水壁を次々と突き破る。勢いは衰えを知らず逆に勢いを増していった。
「相変わらず……恐いね、フェネックスは……!」
辛そうに笑みを浮かべる額には水滴かそれとも冷や汗か、どちらにしろ俺が抗える相手でないことは確かだ。
「だけどっ……『火を司りし小さき王!我が血を灯火の契約の元っ、眼前の邪を焼き付くし業火と共にその姿を現せ!――火蜥蜴(サラマンドラ)!』」
指の皮膚を噛み切り展開させた赤い魔法陣に付着させると、魔法陣は熱を持ち中央から俺より一回り小さな爬虫類が出現した。
「キュルル」と鳴く蜥蜴の姿をしたそいつはノインさんのフェネックスのように全身燃え盛り、その炎からは大量の魔力を放っている。
「あら、なかなか可愛い子を登場させたわね」
「どーも……」
まさか異世界での召喚がここまで疲れるとは思わなかった。仮の姿とはいえ四大元素の代行者の一人、魔力も血も必要以上に奪われたかもしれない。伊達に四精霊と呼ばれるだけある。軽い息切れしていると炎がムラサキナズナさんに軽く触れてしまった。
「あちっ、あっついっ!……えっ、えぇ?な、何この子?」
「ごめんっ、俺もやるだけやりたくてね!邪魔にならないように頑張るよ!」
俺を包む水の膜を破り頭に乗ったサラマンドラは、フェネックスを射殺すような殺気と目付きを向けて身体中を纏う炎を噴射させた。
「あっ、ちょっと!」
「あ……」
噴射された炎はフェネックスに負けじと水壁を突き破っていった。いとも容易く破られる水壁は虚しく感じられた。
なんか、ごめん。わざとじゃないんだ。だからさ、その……そんな涙目で見ないでよ……。
炎はフェネックスと衝突すると激しい閃光を放ち、つい反応して思わず腕で遮った。
「ぐっ……!」
魔力の消費が激しい。 なんとかフェネックスを受け止めてるけど絶対手を抜かれてる。こっちは全力だって言うのに余裕ありすぎだろ!サラマンドラだって召喚時間は無限じゃないんだ……!完全に魔力消費してしまう前になんとかしないと!
「『水姫――ウンディーネ』」
ポツリと呟かれたのは聞き覚えのある四精霊だった。
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