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§ § §
慌てて体を起こすとそこは見知らぬ部屋だった。
ベッドではない布の敷物と毛布に覆われて寝ていたようで、木製の部屋は小さな棚が幾つかと本棚が一つ。やっぱり知らない部屋。
身体中に痛みが走るが我慢できないほどでもなく体を起こす程度なら平気で、両手を挙げるとやはりと言うべきか包帯でぐるぐる巻きにして治療されていた。少し雑に巻かれた包帯は顔や肩、胸元から恐らく足まで痛みを感じるところ全てに巻いてある。
「ここは……」
見知らぬ部屋に戸惑ってしまう。俺はウンディーネに囚われてからその前後の記憶が曖昧になっていた。俺はフェネックスやウンディーネ、ノインさんから逃げ切れたのだとうか?いったいどうやって?
「あの、目は覚めた……?」
対角線先の扉が少しだけ開いた。わずかな隙間から顔を覗かせるのはこの世界の住人、妖怪のかっぱであるムラサキナズナさんだった。
「この通りね。キミが治療してくれたの?」
「う、うん。以前拾った人間さんの本を見ながらだけど……へ、下手くそでごめん……」
「そっか……うん、ありがと、助かったよ」
隙間から見える彼女の顔や手には細々と包帯やガーゼが見える。
「そんな顔をしなくてもいいよ。私は妖怪。人間さんより体は丈夫だから」
「強いね」
「初めて言われた……」
照れ臭そうに笑って扉の向こうに隠れてしまった。照れ屋だなと思いながら壁伝いに扉の方へと歩いていく。扉に近づくにつれ何や不思議な香りがしてくる。
食欲を誘う香り。
俺は扉を開けた。
「うわっ!」
「おっと……」
偶然にも目の前にいたムラサキナズナさんとぶつかってしまい力が出ない俺は尻餅をついた。驚き声をあげた彼女は転けなかったもの凄く狼狽している。
「ご、ごめんなさい!平気!?立てる!?」
「これくらい平気だよ、少し力が出ないだけ」
差し出された手を握るとやはり力が入らずうまく握れない。困ったように笑みを浮かべると腕の下から潜り込んで肩を貸してくれた。
「ご、ご飯、作ったんだけど……その、た、食べる……?」
「ホント?お腹も空いていたんだ、この世界で初めての食事だし楽しみだな」
「りょ、料理は人間さんたちの真似事だからさ……あまり期待しないでね……」
どうやらここは彼女の家のようで、キッチンとリビングが繋がったこの部屋には四人がけのテーブルが一つあった。
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