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彼がいた。そして彼の両親と私の両親。
彼の隣には女がいた。女の顔は、私の顔だった。
女のお腹は大きく、彼は慈しむようにそのお腹に手を当てている。
「もうすぐ産まれるのねぇ」
「去年の今頃は、緊張した顔で挨拶に来てたのに、まさか一年で孫の顔を見る事が出来るなんて……」
「一年前は考えられませんでしたよね。それに失礼だけど、初対面の時は、こんなにしっかりしたお嬢さんだなんて、思いもしなかったんですよ」
「いえいえ、やっぱり素敵な旦那様が出来ると、自然としっかりしてくるんですよ。それまでは甘えん坊でどうしようもない娘でしたから」
母親同士がそんな会話をしているのを、女は笑みを湛えた瞳で見ている。
その瞳が私に向けられる。その落ち着いた色を、私は知っていた。
まだ元気な頃の、祖母の瞳。それと全く同じ瞳で、私と同じ顔の女は私を一瞥すると、“家族”に視線を戻した。
祖母の最期の言葉。
今まで記憶に上ってくる事のなかったあの言葉を、私は突然、思い出したのだった。
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