ひな祭り

2/6
5人が本棚に入れています
本棚に追加
/6ページ
私の祖母は、私の幼い頃に亡くなっている。 とても理知的で、子供の私から見ても美しい女性だった。姿形ではない、一々の仕種が、流麗な美を感じさせたのだろう。 成長した今はそう思う。 そんな祖母の死の際は、それが彼女とはとても思えないようなものだった。今、目覚めたばかりのような瞳には幼さを映し、意味不明な言葉を呟いたのだ。 「お雛様に気をつけて……」 祖母は、我が家に代々受け継がれてきた、長い歴史のある荘厳な雛人形を、それは大切にしていた。これは、そんな彼女の台詞だとも思えないものなのだった。 幼い私は、そんな祖母が恐ろしくなり、泣きながら母に泣き付いた。その直後、祖母は息を引き取り、私の恐怖は、人の死を近くで感じた為だと母は考えたようだった。 その後、私は祖母の遺した言葉は忘れ去っていた。
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!