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私の祖母は、私の幼い頃に亡くなっている。
とても理知的で、子供の私から見ても美しい女性だった。姿形ではない、一々の仕種が、流麗な美を感じさせたのだろう。
成長した今はそう思う。
そんな祖母の死の際は、それが彼女とはとても思えないようなものだった。今、目覚めたばかりのような瞳には幼さを映し、意味不明な言葉を呟いたのだ。
「お雛様に気をつけて……」
祖母は、我が家に代々受け継がれてきた、長い歴史のある荘厳な雛人形を、それは大切にしていた。これは、そんな彼女の台詞だとも思えないものなのだった。
幼い私は、そんな祖母が恐ろしくなり、泣きながら母に泣き付いた。その直後、祖母は息を引き取り、私の恐怖は、人の死を近くで感じた為だと母は考えたようだった。
その後、私は祖母の遺した言葉は忘れ去っていた。
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