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「その島原選手ですが、試合後の談話が届いています。」画面は収録ビデオに切り替わった。その画面には、帽子を目深に被った島原が、不躾に差し出されたマイクにとつとつと語る姿が映し出されていた。『最後の1球は会心の一打だった。神から授かった最後の力を振り絞ってスウィングし、バットは稲葉投手の球の芯を打ち抜いた。打った瞬間はサヨナラホームランを確信していたが、思いに反し打球は詰まっていた。完敗です。稲葉投手が神から授かったものの方が優っていたようだ。稲葉投手の投球に心から敬服します。』島原は神から授かった一振りを使っていた。なのにどうして稲葉は勝てたのか。
「その後の島原選手について、正式に発表されておりませんが、本人は球団に体力と気力の限界から引退をにおわせているようです。今期ベンチ入りしたばかりなのに、神から授かったスイングを使い果たしたとチーム関係者に漏らしているようです。どうも稲葉選手との壮絶な戦いで燃え尽きてしまったようですね。」その後のスポーツキャスターの質問など稲葉の耳には届かなかった。そして、彼はようやく理解した。
「ちょっといいですか。」稲葉は他のチームメイトに質問しているスポーツキャスターのマイクを奪った。
「島原観てるか。俺達は二人で見た夢について深くは話し合わなかった。結果がついてきたものだからよく考えもしなかった。俺達はどうも10年間も誤解をしたまま過ごしてしまったらしい。日本シリーズの対戦では、俺は2球目でゴッドボールを使い果たしているんだ。最後の1球は何にも頼らない、自分自身の体のすべての力を込めて投げた1球だった。お前はゴッドスイングを使った。お前は自分以外のものに頼った分だけ俺の球に差し込まれた。島原、これは本当の事だ。いいか考えても見ろよ。天から降りてきた神様が、絶対打たれない球とどんな球でもスタンドに放り込むスイングなんてチンケなものを人間に授けると思うか。あの河川敷グランドで落雷を受けた時、俺達は正真正銘死にかけていたんだ。そんな俺達に神様が授けてくれた本当のものは、もう一度野球を心から楽しむことができる命とそして肉体だったんだ。だからこの命と肉体が朽ちない限り、これから何度でもお前と勝ったり負けたりできるはずなんだ。」
それだけ言うと、稲葉はスポーツキャスターにマイクを返し席を立った。
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