二日目『備えあれば患いなし』

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「えっ……っと。落ちる場所を間違ってるように思えるんですけど。落ちるのって穴とかでしたっけ?」 「…………」 こ、怖い!! 私におちてくださいなんて、どこをどう解釈していいか分からなくて、落ちるなら穴だよねーなんて能天気に思いながら言ってみたら。 萩原さんの無言の視線が矢のように鋭くぐさぐさと突き刺さってきて痛いし、絶対零度の視線が肝っ玉が縮み上がるぐらいに怖い!! 冷や汗を背中に流しながら口端を引きつらせていれば、萩原さんは手から滑り落ちた箸を握り直して食事を再開させたけど、ちらりと私の方を一瞥してきた。 「今はそれでいいです。おとせばいいだけの話ですから」 だから……誰が誰を落とすというのか。 ……萩原さんが私を? 意味が分からなくてうんうんと考えそうになったところで……考えるのを止めた。 一人考えこんだって、その考えはろくな方向にいかないし、その考え事が自分を苦しめてしまう時だってある。 それに、急いで理解しないといけないようじゃないから、答えはおのずとだしてけばいいこと。 今必要じゃない答えは、今急いで考えて弾き出すのは苦手だ。 肩の力を抜くと、私も食事を再開させた。 三人食事を済ませれば、ああ! と思い出して、皿を食器洗い機の中に並べながら、清太と話している萩原さんに声をかければ、涼やかな目がこちらに向けられる。 「家政婦が住み込んで働く必要ってないですよね? アパートの荷物はこっちに運んでくれたけど、必要最低限の物は持って帰って、今日は私帰りますね」 疑問項目にあった一つを口にした。 ……んだけど。 またしても二人揃って、は? てな表情を向けられているのは気のせいか? 何でだっ。
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