闇の中に佇む

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  家は金持ちの部類に入るものの、身代金の要求などと思われる連絡は一切無し。ならば尚更、兄はどこかの変態に攫われてしまったのだろうと、両親はその顔に暗い影を落としていた。 警察に励まされ、信じ、兄が見つからないまま時は経ち、1週間。2週間。1ヶ月…。 母はすっかりやせ細り、食事のほとんどが喉を通らずに遂には倒れ、入院した。 そんな母を支えるため、父は懸命に働いて俺に気を遣ってくれ、寂しかったものの、母のように病むことはなかった。 もう、10年以上も前の話だ。 今の俺は25歳。社会人になって数年になる。 すっかり兄のいない生活に慣れたが、今でも時々、兄を思い出しては複雑な気持ちになる。 落ち込んだ気分のまま、陽が暮れて、暗くなった道を街灯がぽつぽつと照らしている。 いつもの光景。しかし、俺はふと、気付いてしまった。 まだ先の街灯の下、小さな影がぽつりとあることに。 もしや、これが噂の幽霊か?二十歳になるまで見えなかったら、見ないと聞いたことがあるが…。 などと考え込んでみるが、頭の隅では気のせいだと思いたかったらしく、足は止まらず徐々に人の形をしているのが分かりだした。  
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