28人が本棚に入れています
本棚に追加
こんな時間に子供が出歩いているのか?視力はあまりよくないので、目を凝らしてみる。
そしてようやく確認出来たその姿に、細めた目を見開いた。
兄が、いる。
いや、目の錯覚だろう。いたとしても、他人の空似というやつで兄とは無関係に違いない。
止まりそうになった足をぎこちなく動かしながら、俺の心臓は全力疾走をした時のように激しく脈打っている。
何年も会っていないが、兄弟なのだ。何か、感じるものがあったのだろう。
ずいぶんと近くなった少年は、じっと俺を見据えていた。
無表情だったその顔に、笑みを浮かべ、口を開いた。
「久しぶり、陽透(ようすけ)。」
この10年間求め続けた懐かしい声に名を呼ばれ、俺の瞳からは、決壊したダムのように涙が溢れた。
そういえば、兄が消えた日の満月は、今日のように大きく、爛々と輝いていたな。
最初のコメントを投稿しよう!