私を救う小さな手

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「ねぇね、どうしたの?」 自分で歩くことができるまでに成長した私の妹。 両親に、祖父母に、親戚に、たくさんの人に可愛がられ、よくしゃべるようになった彩良が、私に駆け寄る。 仕事を始めた母よりも面倒をみることが多いせいか、彩良は両親よりも私に懐いているようだった。 舌ったらずなしゃべり方で、あどけない笑顔で、「ねぇね」と懐く妹はとても可愛い。 そんな彩良が、私の顔をじっと見上げている。 「どうしたの」と尋ねると、彩良は首を傾げて言った。 「ねぇねは笑わないの?」 「……。……ごめんね」 ドキリとした。 そうか、幼い妹でさえ気付いてしまうのか。 そう思った。 笑えなくなってから、「どうしたの、怒ってる?」と聞かれるようになった。 作り笑いすらできないと、ここまで面倒なのか。 そう思いながらも、顔は凍りついたように動かない。 まるで麻痺したみたいだった。 脳と他の全ての感覚を繋ぐ何かが。 「じゃあ、さらがねぇねの分も笑うね!」 私が俯いていると、彩良がいいことを思いついたような明るい顔で言った。 そして私に抱きつく。 「さらはね、分かるんだよ」 「分かる?」 「ねぇねが嬉しい時、ねぇねが悲しい時、全部分かるんだよ。だってさらはねぇねが大好きだから!」 「大好き」 その言葉が、彩良の笑顔が、私を温めていく。 私はぎゅっと彩良を抱きしめた。 私の可愛い可愛い妹。 彩良だけが私の味方だった。 ――数週間後、私は言の刃と共に「異能」に目覚めた。 力は言霊。 初めて力を使った相手は、私の大好きな両親だった。
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