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――静まり返った風紀室の中、一人涼し気な表情でソファーに舞い戻ってきた夜は、俺の顔を見るなり、目をきらきらさせてすり寄ってきた。
「深月、さん…!」
『うん。いい子だね、夜。』
サラリと揺れる、夜の絹糸のような黒髪に指を通す。そのまま、何度か優しく撫でてやれば、ふわりと夜は嬉しそうに微笑んだ。
それを目にして、生徒会の面々が驚愕の表情を浮かべるのが、たまらない。笑い出しそうになるのをこらえて、俺は素知らぬ顔で夜を隣に座らせた。
「う、う嘘だろ……。あの、狂犬が…!?」
「淫乱黒王子にこんなになついているなんて……!」
「……あ、りえ、ない。」
「黙れ屑。屑ごときが深月さんにほざいて許されると思っているのか。」
まあ、俺が学校にまともに来るようになったのって二年の5月になってくらいからだし、知らないのも無理もないか。
それにしても夜と毎日行動を共にしてることくらいは、かなり噂になってるみたいだし把握しててもおかしくないのにね。ああ、友達少ないから知らないのか。
なんて、考えていると夜が間髪入れずに普通の人なら恐怖で固まるような冷たい声で3バカを射抜く。
案の定、何度目かの静寂が訪れた室内で、それまで傍観に回っていた“あいつ”が声を発した。
「……おい、てめえら。そろそろ始めて構わねえな?」
『――いいよ、どうぞ?』
“あいつ”、土方が眉を寄せて、すっと目を細める。
ちらりと、生徒会の方を伺えばこちらもソファーにふんぞり返りつつ緩慢な仕草で頷いた。
それを目にして、土方は山南さんと一度目を合わせてまた俺たちに向き直る。
夜がそっと俺の手を握ってくる。
御園は不機嫌そうに足を揺らし、
爽やかは不安気に場を伺う。
床で伸びた淳は、気持ちよさそうに寝息を立てて、双子は興味津々な様子。
風紀は変わらず生徒会を睨みつけ、
今回のキーパーソンである小春はじっと正面を見つめている。
そして、俺は、
―なんだか、
楽しくなる予感がして。
小さく、誰にもわからないくらい小さく微笑んで、
そっ、と夜の手を握り返した。
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