「オカシラァ、ハラァ減りました」

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「あ……あぁ……」  ふと見渡す無数の石の棘が、目の奥へ突き刺さる。目新しいものは、周りには馴染めていないため、色がそれとなく違う。  また、いくつかの手入れもされていないものは、苔が偉そうに繁茂しているため、色が明らかに違う。  ここまでのことで、気付いたかもしれないが、ここは墓場で、魂の抜け殻が眠る不思議な場所だ。 「こ…………来ないで……来ないで!」 「そんなに怯えなくても、大丈夫だ」  明らかに前者は怯え、後者は落ち着き払っている。幾ら墓場でも違和感満載の光景だ。  見れば、一組の男女が違和感の中心に存在していた。  ただし、前者は男で、後者は女だったが。  女の方が何かを呟くと、男は首を横に振りながら、叫ぶ。 「………し、死にたくない! 死にたくないんだよ!! 頼む……!」  男は固い地面にキスでもするように、額を地面へ擦り付ける。  女はしばらく何も言わなかったが、ゆっくりと一言呟いた。 「……そうか」  女はそれだけで、男の横を通り越し、墓場に背を向ける。  男は顔を上げて振り返り、自分の命の危機を回避できたことを確認すると、肩を撫で下ろす。 「興ざめもここまで来ると、滑稽だ」  女の言葉は、男の耳へは決して届かなかった。  男の耳へは、もう何も届きはしなかった。
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