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夜の冷たい真冬の風が右棟の半壊した建物を吹き抜けた。外装は色褪せ、壁は瓦礫と化し崩れていた。
囲むように立てられた街灯は白く淡い光を放ち、建物を不気味に照らす。
裏にある海は静かに波打ち、月明かりは水面で踊るかのように乱反射を繰り返し続ける。
内部はひび割れが目立つが外装と比べると差ほど荒れてはおらず、数人が入った形跡があった。
「今、この中から何か音がしなかったか」
スーツに身を包む、髭面の男が木製で作られた扉を小型電灯で照らす。
「ガラス……が割れたような」
もう1人のスーツ姿の若い男は答えると右手を頭の後に回した。
髭面の男がドアノブに触れようとすると内側から勢いよく開き、軽く吹き飛ばされて壁に頭を打ち付け、よろめいた。
中から現れたのは、一見すると幽霊と見間違えるような白く大きな布を顔まで纏った人物だった。
布は風になびく。
「さぁ、大人しく捕まってもらおうか」
口を開いたのは若い男。ニッと笑い目を嬉しそうに細めた。
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