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「て、ゆーか。
ハル、新生活、どお?」
「え? どぉって、言われても……。
いたって普通……普通だよ」
「ふーん?」
「心配しなくても、ケンカなんてしてないよ?」
ナツの顔は見なくてもわかる。
仲良くしてる? ケンカしたりしてない? そんな興味津々な顔。
私はカバンの中から、ペンケースや下敷きを出しながら平静を装う。
あ。
ケンカなんてしてないし、別に装わなくてもいいのか。
「そっか。じゃぁ、真柴先輩とは相変わらず?」
つんつんと、知らんふりして前を向いた私の背中をつつく。
「相変わらず……だよ。
あ、良かったら……遊びにきて? アキも喜ぶと思うから」
話をごまかす。
や、遊びにきてくれるのはもちろん大歓迎。
「ハルの家(とこ)、1回遊びに行ってみたいと思ってたんだけど、シュウが邪魔しちゃ悪いっていうから……」
行けなかったんだよね、とナツがこぼす。
シュウっていうのは私のお兄ちゃんの事で、ちなみにお兄ちゃんとアキも親友同士。
邪魔しちゃ悪いなんて思うなんて、お兄ちゃんらしい。
遠慮してるのもあるかもしれないけど、多分、妹と親友の生活を目の当たりにするのが照れくさいんだと思う。
「ふふ。お兄ちゃんらしい。
でも、ホント気にしないでいつでも来て? お兄ちゃんが来れなかったらナツだけでもいいんだよ? 遠慮なんかしないでよね」
「うん、そう……そうだよね。
ん……で、さぁ……実際はどぉなの? 真柴先輩とは……さ、その……もう、やった?」
ポリポリとこめかみを掻きながら、どうも歯切れの悪いナツ。その表情(かお)を見て、ようやくナツが何を知りたがっているか理解した。
「なっ!?
ないない! ないよっ……そんなのっ! 全く!」
しかも、ナツは勘違いしてる!
たしかに。
一緒に暮らしてるからそう思われても仕方ないけど……それは誤解というもの。
「そんな、全否定しなくても……。
て、いうか……。ね、ホントに?」
ずいっと顔が寄ってきて、焦って頭を縦にふる。ホントだよ、と。
「嘘でしょ?」そう見開かれた瞳に「嘘じゃないよ」と無言で答えた。
悲しいとか、
そういうのじゃないのに、何だか涙が出そうになった。
続けてどうしてと聞かれても、私は答えられない。
聞きたいのは……私の方なんだから。
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