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「そういうナツは、お兄ちゃんとうまくいってる?」
見透かされたくなくて、話をすり替える。
振り向いてナツに、どうなのよ、と視線を投げかける。
「ん……まーね。
それなりに……うまく、いってる、よ」
照れくさそうに話すナツ。心なしか頬が赤い。
春休み。
私は……といえば。
前半は両親の引っ越しに加えて自分の引っ越し。そして諸々の手続きやなんかで慌ただしく過ぎ去った。
その他にも撮影やら何やらあったのは言うまでもない。
後半はアキの卒業旅行に同行して、そのあとは急遽コレクションに加わったという新作の撮影や、新規オープンのイベントに参加したりと忙しいものだった。
またナツも日中は部活三昧。
ナツは強豪と知られる、我が西陵高校 男子バスケット部を支える唯一のマネージャーなのだ。
ただし、マネージャーといえど部員の一人。
女子だからといって特別も免除もない。……というか、ナツ自身がそういうのを許さないのだ。
だから朝はどの部員よりも早く、帰りは他の男子部員並みに遅い。
日々そんな生活を送りながら、ナツはお兄ちゃんの朝晩のご飯も作っているらしい。部活だけでもヘトヘトだと思うのにナツはすごい。
そんなお互いの事情を知っているから連絡は最小限。
メールか、チャットで本当に簡単なものばかりだった。
「そういえば、お兄ちゃんは元気?」
お兄ちゃんにいたっては連絡もない。アキとは時々連絡を取り合っているようだけど。まぁ、兄妹なんてこんな感じなのかな。
「元気だよ。
そうそう。あのね……この前、つい先日なんだけど。
シュウ、ウチの実家に来てね……挨拶してくれたんだ」
「うわ、そうなの? おめでとー」
「やだ、ただの挨拶だから。
けどお父さんもめぐみさんもとっても喜んでくれて……シュウは緊張してたけど嬉しかった」
ふわりと微笑むナツを見て、親友と兄の恋がすごく順調で2人が幸せだとわかる。
ちなみにめぐみさんっていうのはナツの義理のお母さん。
何でも「歳が10歳しか違わないのに、高校生のこんな大きな娘のお母さんだなんて本当に申し訳ない」と言い、ナツは親しみをこめて『めぐみさん』と呼んでいる。
「そうなんだ。
お兄ちゃんの緊張した姿、目に浮かぶー」
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