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「ったく、何時まで見つめ合ってるんだよ」
すぐ横には『やってられない』そんな表情をしたダイチ先輩。
「っわわ、ごめっ、ごめんなさい」
慌てて我に返る。
ここは体育館……しかもここにはダイチ先輩以外にもバスケ部の部員の皆さんが居て……ようするに公衆の面前。
見渡すと、冷やかすような視線……それに加えてクスクスと笑い声も聞こえる。カァーッと顔中が燃えるように熱い。
「いいだろ。別に……ほっとけ」
アキは……というと、そんな周りに目もくれず話を続ける。
「仕事(生徒会)、終わった?」
「あ、うん。遅くなっちゃって」
「いいよ。オレだって待たせてるんだから。……疲れてるとこ悪いけど、もう少しだけ待てる?」
「ん、大丈夫だよ」
嬉しい。
こうしていると、何だか時間が戻ってしまったかのような錯覚。アキが卒業する前に。
「ったく、アツイねぇ~。一緒に暮らしてるっていうのにね~」
「オマエ、本当に煩いよ。っていうか、声大きい」アキが冷ややかに「黙れ」と続ける。
そう、私とアキが同居……同棲してるのは公表してない。
学校側の許可は貰っているけど、色々な条件が重なった私に対しての特別な処遇なのだ。本来なら未成年同士の同居など認めては貰えない。
ハラハラしながら見守る私に、ダイチ先輩がいたずらっぽく舌を出した。
「冗談。
ちょっと冷やかしが過ぎたかな。嘘だよ、誰も聞いないし。ましてや二人のラブラブっぷりに、誰も近づけないよ」
ほら、といわれて周囲を見渡すと、部員の皆さんは各々クールダウンの真っ最中。笛を鳴らして号令をかけるナツの姿も。
「そこー。先輩たちもちゃんとクールダウンして下さいよー!」たとえ先輩だろうが容赦のないナツの言葉。ひゃー、厳しい。
今やナツは男バスの名物マネージャー。影の部長とも言われてるらしい。
「おっと怖。マネに睨まれてるよ。
ハルちゃ~ん、ちょっと行ってくるから待っててね」
「すぐ戻ってくる」
「うん。行ってらっしゃい」
くしゃり、とおでこを一撫でしたアキは、そのまま体育館を後にした。その後ろ姿を、私はやっぱり懐かしい気持ちになって見送ったのだった。
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