プロローグ 2度目の春

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「ハル……もう、そろそろ……」  そう言うと、アキはするりと腕を抜いて上体を起こした。    肘をついた体勢のアキ。「まだ眠い?」視線がそう語る。 「ん……起きなきゃ、だよね」  本当はもう少し、このままいたい。  けど、カーテンの隙間から差し込む朝日が、そうはいかないと無言で語る。名残惜しいけど起きないと……寝起きの、まだまだ重い身体に言い聞かす。 「そうだけど……もう少しだけ、こうしてたい」  眸を細めて、アキが無防備に笑う。  うわぁ、直視出来ないっ!  顔が熱い……ていうか、一気に目が覚めた!  私のそんな思いに気づくはずもなく……アキはいつもの怜悧さが陰をひそめて、すこぶる甘い。私の髪を弄びながら言い訳のように「あともう少しだけ」と囁く。  こんな風に『お願い』されて、断れるはずがない……!  寝起きなのに何てキレイな顔なんだろう……そんな事をぼんやり考えていたら、その顔が次第に近付いてーーー!  おでこから、こめかみへ。  そして……滑るように頬に、鼻先へとキスを降らせてく。  そしてーーー唇に。  浅くて……柔らかい、キス。  鼻先をくっつけて「おはよう」と2度目の挨拶。  微かに笑い合った後、また自然に重なった。    確かめるように短いキスを何度か降らせると、それは次第に長く深いものに変わっていきーーーゆっくりと角度を変え……さらに深くを探る。  アキの指が私の髪に差し入れられて優しくそっと撫でる。私もそれに応えたくて、アキの背中に腕をまわしたーーーその時。  それは、一瞬で離れた。  ううん、正しくは『それ』じゃない。  重なっていた唇も、髪に差し込まれていた指も、熱をおび始めていた身体も……その『それら』全てが離れた。  何で?……けど、それは声にならない。 「ん、どうした?」何事もなかったようにアキは微笑む。私は、何でもない、と……小声で答えるのが精一杯で。 「先に行ってる。朝食は簡単に……ベーコンエッグでいいだろう?」 「あ……うん、もちろん」   それに異議なんて、ない。ーーーけど。 「ハルはまだ寝ててもいいよ? ちゃんと起こすから」  そう言われても、もう眠れそうにない。  僅かに熱を残した身体を起こして、ため息一つ。  私はアキの後ろ姿を追って、とぼとぼとリビングへと向かった。   
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