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◇◇◇
「えぇー、何それ! ちょっと酷い!
ぶつかっておいて謝らないとか、ありえない!」
眉間にシワ。
目なんてギュっとつり上がっている。
「こんなケガさせておいて……どこのどいつよ!?」そう息巻くのは親友のナツ。
嬉しいけど。
カワイイ顔がホント台無しだよ、ナツ。
実は。登校してすぐ。
私の手足の怪我に、誰よりも早く気づいた親友。
昨日体育館で会った時は部活中だったし、何かと忙しいナツは気付かなかったらしい。
で、昨日の放課後に起こった事を、なるべく大袈裟にならないように話したんだけど、何せ手の平には血止めのガーゼ、足には湿布と包帯でぐるぐると武装。
アキが丁寧に……いや、大袈裟過ぎるくらいに処置をしてくれて……もちろん、大丈夫だって断ったんだけど、私の言葉を聞き入れてくれる事はなかった。
こんな状態でいくら私がナツに「大丈夫だよ!」って説明しても、信じてもらえないのは仕方のない事かもしれない。
「聞いて? 本当に大丈夫なんだって。
こんなに大袈裟になっちゃったけど」と笑ってみせる。
「嘘、膝なんて腫れてるじゃん。
全然大袈裟なんかじゃないよ!?」
何が悪かったのか、ナツはさらにヒートアップ。
「うん……けど、ま。
とりあえずアキも大丈夫って言ってたし……ね、ナツ落ち着いてよ?」
まぁまぁと、宥めながら席に着く。
「……まぁ、真柴先輩が大丈夫って言うなら間違いはないと思うけど……。
その男絶対許せない! 見つけたら言ってよね、一言言ってやらないと気がすまない!」
……何て勇ましい。
惚れ惚れしてしまう。
ってか、こうして自分の事のように怒ってくれて、その気持ちだけで私の気分は晴れちゃうんだから。
昨晩、ムスっとしながらも手当てしてくれたアキを思い出す。それでも、消毒液がしみて私を顔をしかめると、アキも辛そうに顔をしかめてくれた。
「ったく、誰なのよ……」
「ナツ……もういいじゃない。大した事なかったんだし忘れよ?」
実際、すでにあの時の人の顔も思い出せないのは自分の方。と、密かに苦笑。
でもケガは本当に大したことはなかったし、とりあえずこれで良かったんだと思った。
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