後輩 第1号

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「ちょっと、桃谷さん。  廊下(あそこ)……桃谷さんを呼んでる」    通常授業が始まって、一週間。  校門の百年桜はすっかり若葉。  桜はすっかり散り落ち、春の余韻を残した花びらが、時たま風に乗ってアスファルトの上を舞っている。  新しい教室にクラスメート。  だけど、学校生活も二年目となれば、それなりに応用がきく。  二年生という”肩書き”にもようやく慣れてきた。  部活動をしていない私に親しい下級生はいないけど、たまに受ける後輩からの挨拶に、戸惑いながらも二年生になったんだと実感したり……少しくすぐったい気持ちになったり。 「知り合い? 男子だよ」  へ、男子……?  すかさず「珍しいね」とクラスメート。  さすがに二年生ともなれば、まわりはそれなりにカップルができてたり、仲のいい男の子の存在があったりする。  けど私に男子が訪ねて来ることはまずない。一度、生徒会の用事で会長の日高さんが来たっけ……それくらい。  一年の頃はよく来てくれてたけど、な。  けど、その彼は……卒業してしまった。      クラスメートもそれを知ってるから「珍しいね」と興味津々。  ちらりとその方向を見る。 扉のガラス部分から見えたのは、やっぱり……見覚えのない後ろ姿。  はぁ……。  違って当然なのにガッカリするなんて……バカだなぁ。 「……誰だろ?」  こんな時ナツがいれば色々と情報をくれる。交遊関係も幅広く、バスケ部のマネージャーでもあるナツは知り合いも多い。  けど、こんな時に限ってナツがいない。 「一年生、みたいだったけど?」  一年生……それなら、なおさらわからない。  同級生、もしくは三年生ならまだしも。生徒会の役員でもないし、ましてや一年生なら生徒会とは関係なさそう。 「とにかく、呼んだから。  あんまり待たせちゃ悪いよ。早く行ってあげなよ」 「あ、うん。そうだね」  そう言われて、とりあえず頷く。  知らない人からの呼び出し……あんまり乗り気はしないけど、かといって無視するわけにもいかない。  私はため息を一つ吐いて、重い腰を上げた。
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