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「いえ、先輩は有名人ですから。先輩のことは以前から知ってました」
「…………?」
「……オレ、何か変なこと言いましたか」
思わずフリーズした私に、彼が心配そうに首を傾げた。
「先輩って……もしかして私のことかな、って思って」
「は?
そうです。この場合、他に誰がいるんですか」
彼はちょっと呆れ気味。
続けて「先輩って面白いですよね」とぷはっと笑った。
およそ下級生とは思えない大人びた風貌の彼だったけど、笑った顔はたしかに幼さを残している。
それに。
『先輩』だって……くすぐったい。
そもそも言われ慣れてないんだから仕方ない。よくよく考えると、面と向かって言われるのは初めてかもしれない。
先輩って呼ぶことに抵抗はないけど、いざ自分が呼ばれてみるとスゴく照れる。
「先輩? 顔赤いけど……どうかしました? もしかして具合悪いとか?」
「ううん、違う違う。
先輩なんて初めて呼ばれたから……ちょっと、恥ずかしい、っていうか」
「へぇ、初めてなんだ。じゃあ、オレが後輩第1号ってことだよね」と屈託のない笑顔。
後輩に1号2号とかあるんだろうか……そんなことを考えてたその時、5時間目を報せる予鈴の音。
「じゃ先輩。失礼します」
「わざわざありがとう!
私は大丈夫だから、もう気にしないでね!」
私は『後輩第1号』だと言ってくれた彼の後ろ姿を小さくなるまで見送った。
◇
「そういえば、さっきの昼休み。
訪ねて来た一年の子にハルが絡まれてたって聞いたけど、大丈夫だった?」
放課後。
帰り仕度をしている最中。
さすが耳聡いナツ。どこからか情報を仕入れたらしい。
私も別に内緒にしようだなんて思ってはなかったけど、内容が内容だけに黙っててもいいかなって思ってた所だった。
「あぁ……うん。一年生?
来たよ。別に絡まれてはないけど?」
「男子だったって聞いたよ。もしかして告白でもされちゃったとか?」
「違う違う。なんでそうなるかなー。わざわざ謝りに来てくれたんだよ」
冗談をからめたナツの質問に正直に答える。
「謝りにって何かあったの?」
「それが、ねーーー」
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