653人が本棚に入れています
本棚に追加
/71ページ
私は彼が謝りにきてくれた理由を正直にナツに話した。
数日前の渡り廊下での出来事。
私の中ではすっかり過去の話だったんだけども。
こうしてナツに知られてしまった以上、誤魔化すわけにはいかない。ーーーというか、上手く誤魔化せないと思ったから。
ナツはあの時、まるで自分が受けたことのように「どこのどいつよ!」なんてかなり息巻いてくれてたから、話を蒸し返すのは良くないと思って、出来れば知られたくなかったんだけど。
情報通のナツに隠し通すのは、やっぱり無理がある……というワケで…………。
「ふーん。なるほど、ね。
まぁ、ちゃんと謝りに来たのは……評価出来るわね」
「わざとじゃなかったんだし、悪いコじゃなかったよ。ナツももうそんなに言わないで?」
「わかったわよ。で、どこの誰だったの? 名前くらい聞いたんでしょ」
「…………」
「…………ん?」
「…………あ。
あー。……聞いてない、や」
すっかり忘れてた。
忘れてたっていうよりあのコが誰かなんて、気にもしなかったっていうのが正解。
「はぁ? 聞いてないって。っていうか、ソイツ名乗らなかったの」
ナツの声が途端に甲高い声に変わる。礼儀がなってないでしょ、とかブツブツ呟いてる。根っからの体育会系だ。
「まぁまぁ。ナツ、そんなに怒らないでよ。
とりあえずちゃんと謝ってもらったんだし、もう名前なんて知る必要ないでしょ」
「まぁ、それはそうだけど。
説教の1つや2つしとくべきでしょ!」
「さっきも言ったけど、話してみたら悪いコじゃなかったし、何よりワザとじゃないんだから。そんなに怒らないで、ね?」
必死に宥めるけど、ナツはぷぅと頬をふくらませて、そっぽを向いている。
「ケガだって大したことなかっただし、謝ってくれた。これだけで十分でしょ。誰かなんて知らなくていいんだよ。これ以上彼を責めるのはやめようよ、ね」
「わかったわよ。
ハルに免じて許してあげる」と、言いつつナツはしかめっ面のまま。
「心配してくれてありがとね、ナツ。お願いだからもう機嫌なおしてよ、ね?」
「ハルがそこまで言うなら……もう何も言わないことにする」
しぶしぶといった感じではあったけど、ナツの表情に声、そのどこからももう刺々しさは感じなかった。
最初のコメントを投稿しよう!