後輩 第1号

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 私は彼が謝りにきてくれた理由を正直にナツに話した。  数日前の渡り廊下での出来事。  私の中ではすっかり過去の話だったんだけども。  こうしてナツに知られてしまった以上、誤魔化すわけにはいかない。ーーーというか、上手く誤魔化せないと思ったから。  ナツはあの時、まるで自分が受けたことのように「どこのどいつよ!」なんてかなり息巻いてくれてたから、話を蒸し返すのは良くないと思って、出来れば知られたくなかったんだけど。  情報通のナツに隠し通すのは、やっぱり無理がある……というワケで…………。 「ふーん。なるほど、ね。  まぁ、ちゃんと謝りに来たのは……評価出来るわね」   「わざとじゃなかったんだし、悪いコじゃなかったよ。ナツももうそんなに言わないで?」 「わかったわよ。で、どこの誰だったの? 名前くらい聞いたんでしょ」 「…………」 「…………ん?」 「…………あ。  あー。……聞いてない、や」  すっかり忘れてた。  忘れてたっていうよりあのコが誰かなんて、気にもしなかったっていうのが正解。 「はぁ? 聞いてないって。っていうか、ソイツ名乗らなかったの」  ナツの声が途端に甲高い声に変わる。礼儀がなってないでしょ、とかブツブツ呟いてる。根っからの体育会系だ。 「まぁまぁ。ナツ、そんなに怒らないでよ。  とりあえずちゃんと謝ってもらったんだし、もう名前なんて知る必要ないでしょ」 「まぁ、それはそうだけど。  説教の1つや2つしとくべきでしょ!」   「さっきも言ったけど、話してみたら悪いコじゃなかったし、何よりワザとじゃないんだから。そんなに怒らないで、ね?」  必死に宥めるけど、ナツはぷぅと頬をふくらませて、そっぽを向いている。 「ケガだって大したことなかっただし、謝ってくれた。これだけで十分でしょ。誰かなんて知らなくていいんだよ。これ以上彼を責めるのはやめようよ、ね」 「わかったわよ。  ハルに免じて許してあげる」と、言いつつナツはしかめっ面のまま。 「心配してくれてありがとね、ナツ。お願いだからもう機嫌なおしてよ、ね?」 「ハルがそこまで言うなら……もう何も言わないことにする」  しぶしぶといった感じではあったけど、ナツの表情に声、そのどこからももう刺々しさは感じなかった。
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