後輩 第1号

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 それ以来、『颯太クン』は毎日姿を現した。  今日で……確か、4日目になる。  不思議なことに、颯太クンはどこでどう見計らっているのか、いつも私が一人の時に姿を現した。  移動教室の途中とか清掃時間、それから下校前とか。  かといって、別に大した話しをするわけではなくて……会釈程度の時もあれば、引き止められる時もある。  最初は別に何とも思わなかった。けど、何回か重なるごとに苦痛になっていった。  出会い頭にぶつかり私がケガをしてしまった経緯もあって……さらに色々とタイミングの悪さも手伝って、何となくナツに話せないでいたから。  そういう後ろめたさからか……アキにも何となく話しにくくて、少しづつ秘密を重ねてるみたいで気分が悪かったのだ。   「先輩……どーも」  今日も移動教室、家庭科室へ向かう途中の階段。  カレは私がここを通る事を確実に知ってる。  ちなみにナツは当番のため、先に行っている。  私の行動をどうしてこんなに把握してるのか。驚いてしまう。 「……こんにちは」  名前は知っているけど、それ以外は何も知らない。本当に不思議なコ。あえて私も必要以上に聞かないできた。 「あのね。キミは授業の準備とか……」ないの? そう聞こうとして遮られた。 「オレちゃんと『颯太』っていう名前があるんですけど」  何だか不自然に思えて、名前を呼ぶの実は避けてる。彼に名字を聞くけどはぐらかされるし……。 「何で名前なのかな……名字を教えて?」 「別に、名字なんてどーでも良くないですか」    飄々と言われて絶句。  いつものことだ。  ああ言えば、こう言う。 「あ。もしかして先輩ってば、オレに興味持っちゃったとか~?」  私は名前よりも名字で呼びたいと、もうずっと訴えてるのに。全く聞く耳を持ってくれない。  頭を抱えながら、それでも折れるわけにはいかない。 「あのね……!」 「ぷはっ! 先輩、おかしーの!  ジョーダンだって」  颯太クンを調べることは難しことじゃないと思うけど、そんなことしたくないから……しないのに。 「私、急ぐから……もう行くね」 「ん。じゃぁね~。  センパイ」  ガックリ。  また遊ばれてしまった……。  今日も……収穫は、ナシ。    
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