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◇
「ハル、どうかした?
食欲、ない?」
アキの問いかけに意識を取り戻す。
食欲がないわけじゃない。けど、箸が進まないのもたしか。
「あ……そういうわけじゃなくて。
ごめん、なさい。食事中に……」
「それは、別にいいけど。
何か……あった?」
「……たいした事じゃないんだけど……ちょっと」
「ちょっと?」
口ごもる私にアキは何食わぬ顔で追求してくる。
「オレには話せない? 話しにくい事?」
言葉で聞かれ、さらに視線で問われてぐっと詰まる。
アキが静かに箸を置く。
真摯な二つの眸が、ゆっくりと私を捉えた。
「…………」
このまま私が「何でもない」、そう言ってこの場をおさめたとする。大人のアキはとりあえず、一旦は何もなかったように振る舞ってくれるだろう。
けど……アキに隠し事は、出来ない。
いつだって、そう。隠しても上手くいったためしがない。
観念して私も、箸を置く事にした。
「……あ、のね。
もしも、もしもだよ? アキがあんまり良く知らない人に待ちぶせとかされたら……どうする?」
こんなこと相談したら、また心配かけてしまうかもしれない。
高校在学中のアキは男女問わず学校中の憧れの存在だった。私が知るたった1年間だけでも手紙やプレゼント攻撃は数知れない。
私が入学する前なんかは、アキの下校時間に合わせようと他校の女子生徒までもがたくさん校門で待機していたと聞く。
現在……。大学でのアキを、私は知るよしもないけど、どこにいても人目を惹く容姿は相変わらず。
私のおかれている状況と、アキの状況は違うかもしれない。
けどアキなら私情を抜きにして、きっといいアドバイスをしてくれるはずだ。
チラと見つめる。
少しの沈黙の後、アキが小さく息を吐き口を開いた。
「オレは男だから、ね。
身の護り方にしてもそれなりにわかってるつもりだし、あんまりハルの参考にはならないと思う」
その言葉に納得する。
男と女……それだけでも私とアキでは色々と違いすぎる。
「…………」
「相手が異性か同性か……それでまた、対処の方法も違ってくるしね」
チクリと言われて納得。
私が相談したのにもかかわらず、あきらかに伝えた情報が少ない。
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