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なるべく隠したままで、なるべく穏便に……という私の考えは、すっかりお見通しらしい。
アキの表情はいたって穏やか。だけど、それじゃ助言できないよと暗に言っている。
「実は、男の子。…………後輩、なの」
「あぁ……なるほどね」
思っていたよりもあっさりとした返答に面喰らう。
けど、格段に相談しやすくなったのもたしか。
「けどっ! けどね、別に悪い子じゃなくて……。
人見知りしないっていうか……多分、だけど。私に……なついてくれてるのかな」
思い出しながら、話す。
何が困るのかと言えば……やっぱり相手に悪意がない事だと思う。別に嫌がらせを受けているわけでもないのだし。
強いて言えば……そう、子供みたい。
無邪気なのだ。
私は良く鈍感だって言われる。
でも、ね。そんな私でも、悪意のあるなしくらい……経験でわかる、つもり。
「あ、あのね。誤解しないで欲しいんだけど! その子とは、別に仲が良いっていうわけでもなくて……」
やましくなんて、全くない。
やましい事なんて、何もない。
なのに言葉を重ねるほど、アキの顔から表情が消えていくのは何でだろう。
「……そう」
チラっとアキを見ると、腕を組んで黙り込んでいる。
あぁ。
空気が重い。
何を言っても、深みにはまるだけのような気がする。
もうこの話は終わりにしよう……そう思った、その時ーーー
「ハル……その後輩って、この前ぶつかった相手?」
「あ、うん。……そ、そう。
けど、別に悪気はなかったんだよ。ちゃんと謝ってくれたし」
声音はいつもと変わらない。
なのに、明らかにピリピリと感じる。
「怒ってるわけじゃない。だけどこの次……ハルが迷惑するような事があったらちゃんと話して欲しい、いいね?」
私の説明が下手なせいで、何か誤解を招いてしまったのか。アキを怒らせてしまったのか。
「それと……その後輩だけど。
名前、なんて言ったっけ……ソウタ、で間違ってない?」
「……あ、うん」
「ん。じゃ、この話はおしまい。食べよう」
再び箸を持ったアキ。
その顔はもう全く、いつも通り。
さっき、怒っているわけじゃない、と言ったアキ。
けれど……怒ってないようには見えなかったのに。
「ソウタねぇ……」
その呟きは小さすぎて私の耳には届かなかった。
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