HJ

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「泣かないで?笑ってよ」 無茶なこと、言わないでよ。 こんなときにどうやって笑えって言うの? 笑い方も忘れたような感覚が全身を埋め尽くしてる。 目の前にいる貴方だって笑えてないよ、全然。 「せっかく一緒に作ったのに、美味しくなくなっちゃうよ。」 そうだね、涙のしょっぱい味しかしない。 だってどう頑張っても涙は次々溢れてくるし、貴方を見つめる度に愛しさが胸を締め付ける。 この部屋は思い出がありすぎて今の私には地獄のような場所。 触れたいのに、もう叶わないね。 近くにいるのに、こんなにも遠い。 「好きだったよね、僕のハンバーグ。オムライスも、肉じゃがも。」 「…こんなに食べられないよ。」 確かにね、と笑う貴方。 テーブルに並ぶ料理は今まで私がリクエストしたことのあるものばかり。 だからってこんな日に全部作っちゃうのはやめてよ。 嫌でも最後だと思い知らされる。 「お腹いっぱいになったらきっと笑えるよ。」 そうかもね、となんとなく相槌をうった。 なるわけない、どんなに頑張ってもきっと笑えない。 最後に残る思い出が泣き顔なんて嫌だけどどうしようもないの。 ただ抱き締めてほしい。 頭を撫でて。 そんなこと、言っちゃいけない。 「いつか、あんな恋もしたって笑って思い出せる。」 「……思い出してくれるの?」 「うん、愛しさが懐かしさに変わったら。」 じゃあ私は一生無理かな。 貴方を思い出にするなんて、出来ない。 出来たとしても100年はかかる。 「………ねぇ…、」 「ん?なに?」 「………………。」 何でもない、と首を横に振った。 言えなかった。 愛してるなんて。
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