第一章 始まりの妄想

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 高峰悠里。  今年で三十二歳、職業は官能恋愛小説家。  うだつのあがらない時期が長く、その間にサスペンスものやSFものやジャンルの統一にこだわらず、数打った中で去年「愛憎の果て」という大人向けの恋愛小説が大ヒットベストセラーになり、映画化までされた。  その印税で今までの貧乏生活を一変できるような大金を手にしたが、悠里はあえて変わらない生活を選んだ。  1LDkの狭い部屋には原稿やその他諸々の資料が散らばっていて、昨夜食べたカップラーメンのゴミが無造作にゴミ箱に捨てられている。  そして洗濯物は部屋に干しっぱなしだ。 「もう一回寝てみるかな……」  昨夜寝る前に恋愛ストーリーのドラマCDを聴きながら寝入ってしまったため、あのようなリアルな夢を見てしまったに違いない。  いつも締切に追われる悪夢ばかりなのに、夢見が良すぎて二度寝したい気持ちに駆られた。
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