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 3月。ほのかに暖かい春の日差しが、わたしたちを送り出す。  その日はわたしたちの卒業式だった。  玄関で赤い花を制服につけてもらい、浮き足立った気分で教室に向かう。  通る教室はどれもガヤガヤとして、卒業式という終わりの行事に気持ちを高鳴らせていた。 「おはよう!」  元気な声で教室に入って、近くにいた人たちにタックルするように抱きついてあいさつすると、同じテンションで「おはよー!」と無意味に抱き合った。  先生が来るまでわたしたちは写真を取ったり、卒業アルバムにメッセージを書きあったりしていた。  普段話せないような男子にも、勇気を出して写真を撮ってください、とか言っちゃったりして。  卒業式、という行事が華やかに感じるのは、自分が卒業する年だけだ。  上の先輩が卒業するときは、でかい顔をする先輩がいなくなることへの安堵と、そして仲の良かった先輩がいなくなることへの悲しさ。  後輩が卒業するのは……中学生のわたしにはよくわからなかったけど、自分が通り、そして誰もが通る「あたりまえのこと」なのだから、きっとどうでもいいことなんだろうな、と思う。
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