第三話 キーホルダー

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「これは合鍵作った意味ないな」 ふと気づいた。 マスターキーと合鍵一緒にして持ち歩いていたのだ。 (しっかりしろよ) 自分にそう言いたかった。 かれこれ7~8年この状態だった。 (マンションも買ったし心機一転、記念になるキーホルダー欲しいな) 先日彼女と話をしたところだ。 俺は神頼みじゃないけど、伊勢神宮のキーホルダーがいいかなと思っていた。 彼女はダサイと言った。 (確かに言われて見ればダサイかな) ネットで画像を検索してみたが、もう少しデザイン考えて欲しい。 せめて中年の女子でも身に付けられる程度だったらなあ、なんて歯ぎしりした。 「伊勢神宮の方は家に保管しとけばいいんじゃない?」 「…」 彼女は黙っていた。 彼女が黙ってしまうときは、だいたい答えはNOである。 これは考え直さなきゃいけないパターンである。 「いつも持ち歩くやつは感じのいいブランドものがいいかな?」 俺は記念になるものなら、多少値段がはってもよいかなと思っている。 彼女は結構ブランド好きだし、やはり欲しいだろう。 「ティファニーがいいよ」 やっぱり気に入ったのが彼女の口から出てきた。 ティファニーは聞いたことあるぞ、と思いながらネットで検索してみた。 (それなりにするな~) こんな小さな輪っかが1万も2万もするとは。 俺の感覚では考えられない。 「ペアで揃えたいよね」 当然のことを言ったつもりだったが、この言葉から雲行きが怪しくなってきた。 「私ティファニーのキーホルダー持ってるって言わなかった?」 あれ、言ったかな? 必死に記憶をたどってみるが、ピンとこない。 「一回写真送ったし」 明らかに不機嫌の色が見える。 言われているうちにうっすらと思い出してきた。 ブランドものに興味がない俺には、あいまいな記憶になっていたのだ。 「私ブタちゃんのキーホルダー持ってるし」 完全にすねてしまったことはわかる。 しかし、どうすればいいのかが全然わからない。 ブタちゃんもかわいいよね、なんて言っても彼女には通用しない。
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