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「写真はだめだよ」
物凄い強風で波しぶきが通路まで飛んできている。
人影は一切なく、ただ常駐の人がいるのか建物には明かりがついている。
「大丈夫だよ」
「変なのが写ったら嫌」
「んー、じゃあ、やめとこうか。うわ」
どーんという音とともに波しぶきが跳ね上がった。
夜の海は初めて見たけど怖い。
その波のうねりを見ていると、本当に何か映りそうな感じがしてきた。
場所は三重県二見輿玉神社。
有名な夫婦岩を見るために夜中に忍び込んだのである。
「と~ちゃん、寒いよう」
「よし、帰ろう」
その間にもどーんという音とともに波しぶきが行く手を阻む。
(無事帰るのカエルさん頼むぞ)
この神社のまつり神はカエル。
無事かえる、お金がかえる、とかが謳い文句として看板に書かれている。
本殿に向かう時より、帰る今の方が波しぶきが激しい気がする。
(お賽銭もしたのに)
そうそう目に見える御利益なんかない、と分かっている。
しかしこれだけ謳い文句掲げてるんだから!
そんなことを考えているうちに、さらに風が増してきた。
まりがぶるぶる震えているのが分かった。
神頼みはやめだ。
「まり、俺のジャンパー着な」
とにかくまりが風邪引かないようにしなきゃ、とジャンパーを着せた。
俺は寒かったけどやせ我慢した。
「と~ちゃん、あそこ綺麗」
ふとまりの方を見ると、目をキラキラさせている。
そして、まりが指さしした先を見ると、神社の灯籠が海岸線に沿って遠くまで美しく並んでいた。
向かう時には気づかなかった。
まりが感動している。
(御利益あるもんだな)
そう思いながらふと本殿の方を振り返ると、カエルの鳴き声が聞こえた気がした。
風も気持ち和らいだように思えた。
まりをぐっと抱き寄せて、無事に車まで辿り着ついた。
「諦めず、いって良かったね」
「うん」
寒さが残る3月の出来事だった。
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