第一話 夫婦岩

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「写真はだめだよ」 物凄い強風で波しぶきが通路まで飛んできている。 人影は一切なく、ただ常駐の人がいるのか建物には明かりがついている。 「大丈夫だよ」 「変なのが写ったら嫌」 「んー、じゃあ、やめとこうか。うわ」 どーんという音とともに波しぶきが跳ね上がった。 夜の海は初めて見たけど怖い。 その波のうねりを見ていると、本当に何か映りそうな感じがしてきた。 場所は三重県二見輿玉神社。 有名な夫婦岩を見るために夜中に忍び込んだのである。 「と~ちゃん、寒いよう」 「よし、帰ろう」 その間にもどーんという音とともに波しぶきが行く手を阻む。 (無事帰るのカエルさん頼むぞ) この神社のまつり神はカエル。 無事かえる、お金がかえる、とかが謳い文句として看板に書かれている。 本殿に向かう時より、帰る今の方が波しぶきが激しい気がする。 (お賽銭もしたのに) そうそう目に見える御利益なんかない、と分かっている。 しかしこれだけ謳い文句掲げてるんだから! そんなことを考えているうちに、さらに風が増してきた。 まりがぶるぶる震えているのが分かった。 神頼みはやめだ。 「まり、俺のジャンパー着な」 とにかくまりが風邪引かないようにしなきゃ、とジャンパーを着せた。 俺は寒かったけどやせ我慢した。 「と~ちゃん、あそこ綺麗」 ふとまりの方を見ると、目をキラキラさせている。 そして、まりが指さしした先を見ると、神社の灯籠が海岸線に沿って遠くまで美しく並んでいた。 向かう時には気づかなかった。 まりが感動している。 (御利益あるもんだな) そう思いながらふと本殿の方を振り返ると、カエルの鳴き声が聞こえた気がした。 風も気持ち和らいだように思えた。 まりをぐっと抱き寄せて、無事に車まで辿り着ついた。 「諦めず、いって良かったね」 「うん」 寒さが残る3月の出来事だった。
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