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道は、間違ってない。間違ってるのは私の意識だ。
交差点に差し掛かった、結構見慣れた交差点。
そこを真っ直ぐに直進した。合ってる、私の家に向かってるんだからこの道で間違いない。
けど、ぼんやりしていた意識は現実とは裏腹に勝手に左に曲がって行った。
だから心が左に行ったのに、体は違う道を進んだことがおかしく思えた。一瞬だけ。
「今の道左に曲がってください」なんて言おうとした口は普通に閉じた。発する前に気付いたから、間違ってない、って。
さっきの道を左に行けば永井の家に行くルートになる。自分の中の日常にあの男がいるのは普通で、培ってきたあいつとの記憶が視覚に染みついていたんだ。
運転手さんに聞こえない程度に小さく溜息をついた。
そこからは家に着くまで視覚を封印した。つまり目を閉じた。
早くあいつを消し去りたいのになかなかそれができないことが歯がゆい。同時にちょっとやそっとのことじゃ消えないから考えないようにシャットアウト。
お酒が入っている状態で目をつむる。心地よい振動が眠れー、眠れーと睡魔を誘う。
ラジオが眠気を助長させる呪文のように聞こえる、もう内容なんて全く入ってこない。
眠るまい、と気を保ち睡魔と必死に戦うことで永井のことは考えなかった。
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