腐りかけの林檎

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日差しが入らないよう、一日中閉め切っているカーテン。 病室中を冷気で満たすエアコン。 ヘッドホンからは気に入った歌手の、癖のある歌声が流れる。 快適だ。 これは、俺の快適な空間なのだ。 思って、切れた林檎を一つ口にした。 いつもならシャキリと林檎を口に含む音がするのだか、今はヘッドホンの音楽と混ざって頭にシャキリと響く。 感覚的に変な感じだ。 歌が終わって何か飲みたいと思った。 病室のベッドを降りると、その横で林檎を剥いている母が顔を上げた。 「どうしたの」 「自販機行ってくる」 「うん、・・あ~私もう帰らないと」 「俺が戻って来るの待たなくていいから」 「でも・・・」 「いいよ」 「・・分かったわ。でも帰りたくないなぁ。ほら、ここって快適じゃない?外は暑いのよ」 そんなこと、俺に言うなよ。 「・・・・」 「なんてね~。自分のことの心配じゃなくて寂しかった?」 「・・・・」 「じょ、冗談でしょ。そんな冷たい目で見ないでよ」
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