終わりの始まり当にそれ

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遥か先にみえる地平線上にすら なにもない荒野。 私が砂ぼこりだらけの髭(ひげ)を撫でながら歩いていると 後ろから近づいてくる “彼等”の会話が聞こえた。 「黒枝さんって、 運命とか奇跡とか神様とか 信じるタイプですか?」 一人はまだ小学校に通っているような幼い女の子の可愛らしい声だった。 「いつかちゃん、 いきなりなんだい? ついに旅の空腹で 悟っちゃたのかい?」 その声に楽しそうに返した返事は若い青年のような声だった。 「いやそういう訳では… ただ少し思っただけです… 世界にはたくさん人がいて それぞれが努力したり、 怠けたり、愛されたり、 殺したり、助けたり… みんな『勝ちたい』、 『もう嫌だ』、『誰かといたい』 『後悔したくない』と言って 自分の為に動きますが… 結局どんな人も 自分以外がいないと このような感情が成り立たなくて 自分以外に 行動を示さないと なんにも意味がない だからどんな人も 『他人の為に生きている』 のではないかと… そんな世界が出来ていてる これが運命で奇跡で神様なんじゃないかと… 少し思っただけです。」 私は後ろで幼い声でしっかりとしたことを話している声の主の正体が気になり、 後ろを振り返ってみた。 「うん!! いつかちゃん、 それはきっと この前泊まった国の 宗教に毒されたんだよ!! 仮にそれがいい話だったとしてもさあ…… 君がさっきすれ違った 旅人のおじさんを食べながら喋っていたら 『人はみんな他人の犠牲になる為に生きているの♪』 みたいな話にしか 感じ取れないよねぇ。」 これが私の38年の人生 最期に聴いた会話であり、 30年のにわたる旅の終焉である。 ……
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