月夜里くんは平凡を愛する

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 「どうしてこんなことになってしまったんだ!!」  住宅が立ち並ぶとある街の路上を普通ではおよそ口にしないであろう言葉を口走りながら疾走する男子高校生がいた。    彼の名は月夜里薫(やましたかおる)。    背丈こそ標準的な日本人男性より少し高いくらいだが、鼻梁が高く通った鼻筋に大きめな瞳が相まった顔立ちは欧米人の雰囲気を漂わせていた。    そんな彼が鬼気迫る形相で駆けているのには生半ならぬ理由があった。それは・・・  「ちこくだあああああああああ」  晴れて高校入学を決め、その高校生活の始めを飾る入学式の日である。ここで遅刻などしてしまえばいきなり出端をくじくどころか、周りに与える第一印象も好ましくないものになってしまう事請け合いだった。    だから走った。真新しい制服に皺がよるなどと悠長な事を言っている場合ではないのだ。しかしあまりに走る事に集中しすぎた為に、薫は後ろから音もなく忍び寄る気配に気づかなかった。  「この分ならギリギリで間に合うか?」  赤信号で立ち止まり、一息ついて手元の時計を確認した時である。  「隙ありいっ」  薫は背後からいきなり伸びてきた手で首に絞め技をかけられていた。目を白黒させながら後ろに何とか首をねじって襲撃者を確認すると、そこには薫と同じ高校の制服を身に着けた少女がいた。  「ゆ、夕鶴・・・何がしたいんだ」  「そうねえ・・・キス?」  あいさつもそこそこにいきなりすごい言葉をのたまった少女。  年齢としてはまだ少女の部類に入るのであろうが、長い睫毛に彩られたややつり気味の大きな瞳と人形のような顔のつくりは大人びた印象を与えている。  外見的には女性と言ったほうがしっくりくるのかもしれない彼女は、艶のある結い上げた豊かな黒髪を後ろでまとめている。いわゆる大和撫子を体現しているようだった。  「はいはい、遅刻するからまた今度な」  「酷い。それが家を出てからずっとストーカーしていたけなげな女の子に対する仕打ちだというの?」  わざとらしくよよと泣き崩れるものの、その目は笑ったままだ。ルックスもさることながら、制服の上からでも身体のラインがわかるほどに均整の取れたスタイルなので、やや芝居がかった仕草もそれなりに様になっている。  
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