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先ほどの凍てついた無表情を貼り付け、鋭い視線を射掛けるのはやはり夕鶴であった。
薫が緊張して身構えたのに対し、すぐに相好を崩した夕鶴はいつも薫に見せているのと同じ微笑をみせた。
「おいで」
薫は狐につままれた表情でゆっくりとベンチまで歩いていって夕鶴の前に立って覗き込むように問いかける。
「夕鶴、でいいんだよな?」
「ふふっ、何言ってるの?おかしな薫ちゃん」
教室に来たときの少女が見せた冷たい笑みではなく、安心できるような、いつも薫が見ている優しい笑みだった。夕鶴は横にずれてベンチのスペースを開けた。
「ほら座って、まだお昼も食べてないのでしょう?」
「その前に聞きたい事があるんだけどな」
いつもの夕鶴の態度に安心しながらも、まだ薫には緊張の表情が残っている。
「いいわよ。何でも聞いて」
「さっき教室まで来たのは、夕鶴なのか?」
「ええ!まさかわたしの顔を見忘れたの?ほらよく見て、わたしよ」
驚いたように立ち上がると薫の顔を両手で包むようにして顔を近づける。
「のわっ、大丈夫大丈夫!ちゃんと夕鶴だったな。だから顔近づけんな!!」
夕鶴はすっ、と右手で薫の頬をなでると、薫とは逆を向いて2、3歩だけ歩いた。
「まあ、ちょっと薫ちゃんを驚かせちゃったかしら」
「ちょっとどころじゃないっての。もしかしてそっくりさんの別人が来たかと思ったしな」
「あれがね・・わたしのこの学校での顔なの」
くるりと振り向いたが、うつむいた顔に陰がさしていた。声もいつになく沈んでいるように薫は感じた。
「お、おい夕鶴!大丈夫か?」
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