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薫が肩に手を伸ばそうとすると夕鶴は急に顔をあげた。
「ねえねえ、寂しかった?」
その顔は元のように明るくなっていた。
「は?」
「わたしがいきなり冷たい女になってて不安になったんでしょう、ああ、嫌われてしまったんじゃないかってドキドキし通しの薫ちゃんの顔。あの時どれだけ携帯のカメラで撮って待ち受けにしたい衝動に駆られた事か」
頬に手をあてて身体をくねらせる夕鶴。顔から輝く星のひとつやふたつでも出そうな喜び方である。
「ふんっ、別に寂しくなんかなかったさ。なんだ、夕鶴はまた機嫌が悪いのか。全く困ったやつだな。程度にしか思わなかったぜ」
「そう、じゃあこれからは薫ちゃんにもさっきみたいな態度で接してもいい?」
「なんだと?それは・・・こ、困るなあ」
消え入りそうな声で、もごもごと話す薫を見て悪戯っぽく笑うと、踊るように回ってまたベンチに座る夕鶴。
「嘘。あれは風紀委員としての顔だから。ふふっ、そんな嬉しそうな顔しないでよ。かわいいんだから、もう」
「うるさい、こっち見んな」
今度は薫が後ろを向く番だった。しかしなんとかして一矢報いる手は無いかと考えた薫はある事に思い至った。
「湊だ」
「あら、ちょっとからかい過ぎてパンクしちゃったの?」
「違う。だからこの前は湊に夕鶴のいつもの姿を見せちゃってるじゃないかよ」
「ああ、何だそんなこと」
取るに足らない瑣事だと言わんばかりの夕鶴。
「あくまで主観ではあるけれど、彼がわたしのプライベートでの姿を他人にペラペラと言いふらすような人間には見えないわ」
少しでも夕鶴の慌てる様を見てやろうと適当に挙げたことだったので、内心では薫も同じ意見だった。
「ぐ、ぐう」
「あはは、今ぐうって言った。ぐうの音もでないというのは良く使われるけど、本当にぐうなんて言う人を見たのは初めての経験ね」
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