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薫が敗北感を噛み締めるのに対し、夕鶴はようやく笑いを収めて、笑いすぎて出てしまった涙を拭っている。
「ふう、でも万が一のことはしっかり考えてあるの」
「万が一ってどんな時のことだよ?」
「ほら、例えばわたしがさっき言ってた彼の人間性を見誤っていて、私のことを言いふらされそうになったとするでしょう」
「ほう、それはまあないだろうが、可能性としてはあり得るよな。そしたらどうするんだ」
「大丈夫。カポエイラの達人に手ほどきを受けた疾風迅雷の足技で、即座に屠り去ってあげるわ」
「怖いことをさらっと言うな」
ちなみにカポエイラとはブラジル発祥の格闘技とダンスが融合したいわばリズム格闘技のようなものである。
「失礼、即座にお空のお星様してあげるわ☆」
「かわいい感じの言葉でごまかしても一緒だ」
「語尾に☆がつくのがチャームポイントよ」
「はいはい、わかったよ。それよりさっきからオレの腹の虫が空腹を主張して大変なんだ。教室に戻る前にパンでも買って食べないと、放課後までには餓死する自信がある」
「こんなに春風が気持ちいいのだからもう少しゆっくりしていかないの?一応言っておくけど、この屋上って普段風紀委員しか入れないのよ」
「残念ながら今のオレには春風よりパンなんだよ。じゃあな」
帰りかけた薫の目の前にやたらと香ばしい匂いのする紙袋が差し出された。
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