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そんな姿を横目にしながら、如何にも面倒だという風に適当にあしらうのを見る限りでは、どうやら先ほどの衝撃的な発言も普段のやり取りの一環だと思われた。
すげなく振る舞われてもむしろ楽しげに見える彼女は遊馬夕鶴(あすまゆづる)という。薫と並んでもやや低い程度の背丈は女性としては長身と言えるのだろう。
「ふふ、いいのかな、そんなに邪険にしても。あとで寂しくなっても知らないんだから」
真意を量りかねる言葉に首を傾げる薫に夕鶴は悪戯っぽく笑いかけると、信号を渡って颯爽と行ってしまった。
呆れた様な、戸惑った表情で固まっていた薫だったがすぐに我に返って走り出した。
「しまった、時間が、遅刻しちまう!!」
なんとか入学式の日に遅刻という事態だけは免れたものの、全力で走り続けた代償に入学式の最中からクラス分けのの時までほとんどグロッキーだった薫だった。
教室で机の上に突っ伏して一息ついているところで横から服を引っ張られているのに気づいた。
「ねえ、ちょっとちょっと」
「んん、なんだあ」
死んだ魚の様な目をしながら薫が横を向くと、心配そうに見つめる「何者か」がいた。何者かというのは変な表現だが薫の語彙の中にはこの人物を説明する言葉はそれしか浮かばなかった。
薫が目を丸くしていると、
「何だよ、おばけでも見る様な顔をして。一応初対面なんだからさ。何か話したらどうだい」
「え、ああ、ごめん。あまり初対面なのにこういう事を聞くのはどうかと思うんだけど」
「煮つまらない返事だな、まあいいよ。何が聞きたいのかな」
ちょっとためらってから薫はおおよそ非常識な事を口にした。
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