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土曜日の朝である。もう中天にさしかかった太陽も心地よい日差しを、外出している人々に供給している。
薫の住む家は街の一角にある5階建てのマンションの最上階の角部屋にあった。
部屋の中はとても静かであった。このような絶好の行楽日和なのだから、ここの住人もやはり出かけてしまっているのだろうか。
いや、そんなことはなかった。ある部屋からはもう昼過ぎだというのに寝息が聞こえてくる。
部屋はカーテンを閉め切っているせいでまだ暗く、抜群の採光を誇るであろう南に面した窓が無用の長物と化している。ベッドでは薫が気持ちよさそうに惰眠をむさぼっていた。
この良い天気の一日を眠って過ごそうとする不届き者の高校生。もし天の目というものがあるとすればそれを見逃してくれる筈がなかった。
暫く経っただろうか。玄関の鍵がほとんど音もなく回され、頭から手ぬぐいを被り、風呂敷包みを背負った人物が室内に侵入してきた。その口元にはなにやら黒い髭のようなものも見える。
そのあからさまに怪しい格好の不審者は忍び足で迷うことなく、薫が眠る寝室までたどりつくと、さらに部屋にまで侵入してきた。不審者はおもむろにデジタルカメラを取り出すと、薫の顔を撮影し始めた。
薫はというと警戒感という概念を大気圏外まですっ飛ばしただらしない表情で一向に目覚める様子がない。
すると不審者、風呂敷包みを下ろすと、なんと薫のベッドに横になり、同じく息を立て始めたのである。
また沈黙。そして数分が経過した。相変わらず不審者との添い寝を続ける薫。
このままでは身も心も無事に済むわけがないのだが、ここにきてようやく、眠り姫ならぬ三年寝太郎が違和感に気づいて目を開いた。
「・・・・・寝よう」
この時の薫の心境は如何なるものだっただろう。目を開くと見知らぬ顔の髭を生やした中年の男が自分の横で寝ているのである。夢だと思いたくなるのも無理からぬことだった。
だがこれは夢ではない。夢よ覚めろ、と念じながらもう一度目を目を明けるが、その前には変わらぬ景色が、
「ぎゃああああああああ」
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