14人が本棚に入れています
本棚に追加
飛び上がってベットから落下し、派手な音を立てる。
その音で不審者も目が覚めたのか身体を起こすと薫をじっと見つめていた。無言であるのがますます恐怖を掻き立てる。
「おっさん誰だよ!何でオレの部屋に!?」
声を震わせる薫に反応を示さず、ベッドからゆっくりとした動きで薫に近づく。ドアへの逃げ道を塞ぎながらにじり寄るのはさながら獲物を追い詰める蛇のようだった。
「ひいっ!お、オレは美味しくないぞ!不健康な生活をしているからな」
やや意味不明な言葉を並べて、最後の抵抗をしようと破れかぶれに右手を突き出すと、何か柔らかい感触が伝わってきた。
「んんっ」
聞こえてきたその声は男にしては透き通りすぎていて、中年の不審者の身体はよくよく見ると、胸の辺りが不自然なほどに出っ張っている。さらにおかしなことに、デニムのショートパンツを穿いていてそこからはスラリとした足が覘いている。
「おいおい、お前まさか」
「ふふふ、そう、わたしの正体は」
「あーあ、ちょっとコンビニ行ってくる」
「嘘でしょう?ここが盛り上がるところなのに」
薫がカーテンを開け放つと顔と首から下がアンバランスな異様な人間がそこにいた。
顔はさえない中年の男が唐草模様の手ぬぐいを鼻の下で結んだ古典的な泥棒スタイルをしているのに、首から下は、白いシャツにダメージの入ったかなり丈の短いダメージのショートパンツという、現代の『女性』のいでたちである。
何より出るところがしっかり出ているのが、顔との違和感にいっそう磨きをかけてしまっていた。
「よくやるよな。どこでその変身マスクを手に入れたんだ?」
不審者もどきが首の辺りに手をかけて上に引っ張ると、その下から首から下にちゃんと調和した顔が表れた。
もはや普通の登場が出来ない星の下に生まれたのでは、と危ぶまれる少女、夕鶴である。
「ぷはあ、これ結構暑かったのよ。次は通気性もしっかり計算に入れて作らないと」
「これお前が作ったのかよ」
手渡された物は人間の顔の皮のような不気味な物体で、質感にリアリティがあって、暗闇で見れば作り物だとは分からないほどの精巧な造りだった。
最初のコメントを投稿しよう!