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「そう、割と手先は器用なの」
「凄いな、どうやったんだこれ?手先が器用ですってレベルじゃないぞ」
「やり方は教えないわよ」
「何でだよ、どうせオレには作れないってことかよ」
「だってこれは薫ちゃんにばれないでストーカーするための七奥義のうちの一つだから」
「七奥義!まだ他にもあるのか?」
「そうよ、鍵を使わずに玄関のドアを開錠したのもその奥義の一つなの」
誇らしそうに胸を張る夕鶴だが、犯罪の匂いのする奥義である。薫がげんなりしていると、
「結局は薫ちゃんが犯した大罪で、わたしのかわいい悪戯は帳消しになったようね」
「今度は何を言い出すんだ?」
「だって、さっき薫ちゃんに胸を触られたでしょう。あれは婦女暴行という立派な」
「完璧な正当防衛だ!!」
「でも世間は薫ちゃんとわたしのどちらの言い分を信じるかしら。片方は欲求不満の性春高校生、片や純真無垢であるばかりに家に連れ込まれた女の子」
「ほう、純真無垢が狡猾残忍と同義語だとは知らなかった。ちなみにオレが駆け抜けるのは性春じゃなくて青春だ!だいたい忍び込んだのはそっちだろうが」
「そう言って優位に立った薫は密室で逃げられない状況の夕鶴を押し倒すのだった」
「勝手に地の文っぽく捏造して語るんじゃねえよ!」
薫の疲労の色が濃くなるのに反比例して、夕鶴の顔は輝きを増していくようだった。
「なんでそんなにオレをからかって嬉しそうなんですかね夕鶴さん?」
「決まってるでしょう。大好きだから」
薫の目を真っ直ぐ見据えると、当たり前のことのようにさらっと答える。
「そ、そんな事をいきなり言われてもだな」
いきなりの直球ストライク過ぎる表現に、焦って視点が定まらなくなりそうな薫。
「薫ちゃんを『苛めるの』が大好きで大好きで、1週間に一度はそうしないと生きていけないの」
「帰ってくれ」
「いやよ」
寝坊男への折檻はまだまだ続くようである。
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