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夕鶴の提案を無下にすれば、また明日からコーンフレークかトーストのみの味気ない朝食に逆戻りである。受け入れればバラ色の朝食を毎日楽しむ夢のような日々が・・・。
もはや薫の答えは一つしかなかった。始めから重要な意思決定機関である胃袋は夕鶴にがっちりと握られていたのである。
「お願いします。夕鶴さん」
「素直でよろしい」
満足げな夕鶴はその後も朝食を幸せそうにがっつく薫を、また幸せな顔で見つめていた。
のんびりとした時間が流れていたのだが、ここで夕鶴は忘れてしまっていた、薫の家を訪れた目的を思い出した。
「そういうわけで薫ちゃん」
「なんだ夕鶴?」
「明日から毎朝朝食を作りに来てくれる幼馴染に何か言いたい事があるんじゃないの?」
「ああ、夕鶴みたいな優しい幼馴染がいてオレは幸せだよ。ありがとな」
満腹になった幸福感によって、ひねらず、ごまかさず、思ったままの言葉を笑顔で口にする薫。
「くっ、その笑顔は卑怯よ」
予想していなかった素直な返しに、歯切れが悪くなってしまっている。
「わざわざ食材まで買ってきてくれたんだったよな。ちゃんとかかった費用は払うから」
「そんな事はどうでもいいの!だからそうじゃなくて・・・頑張った相手にはお返しとか・・ご褒美とかないのかな、と思ってみたりして」
少し拗ねたように下を向く夕鶴。
夕鶴の計画ではもっと軽い感じで、薫から交換条件について言わせるつもりだったのだが、思わぬ直接攻撃により足をすくわれた形になっていた。
「それももっともだ、さあ何をすればいいんだ?オレは美味しいご飯のためならば、身体を張れる男だってのを見せてやろうじゃないか」
いつになく素直な男気あふれる薫だが、何のことはない。要するにただの食いしん坊万歳である。
そしてそんな薫を見て調子を取り戻したのか、夕鶴は姿勢を正して芝居がかった仕草で朗々と語りだした。
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