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「あのさあ、あんたって男、だよな」
薫がこう思ったのも無理はなかった。
目の前にいる人物は男子用の制服を着ていたものの、どう見ても男子には見えなかったからである。美少女、正確に言えば美少女っぽい何者かがそこにはいた。
その美少女っぽい何者かは少し戸惑った様子を見せたが、すぐに笑顔を作り直した。
「嫌だなあ、いきなり何を言い出すんだい。ボクはどこからどう見ても男の子にしか見えないだろ」
「あ、ああ、そうだよな。そりゃ女が男物の制服着るわけがないよなあ」
調子を合わせてはみたが、ナチュラルショートのいかにも柔らかそうな髪に小作りな顔、アーモンド型の瞳、ちょっとあどけなさは残している口もとなどは美少年の凛々しさというより、やはり美少女の可愛さといったほうが正しいように薫は思ってしまっていた。
しかし、彼のどこか念を押すような威圧感のある笑みに引きつった笑いで肯定をしておいたのだった。
「ボクは薬袋湊(みないみなと)っていうんだ。えーっと、キミの名前は・・・」
「そういや名前も聞いてなかったな。悪い悪い。オレは月夜里薫。薫って呼んでくれれば良いよ」
「オッケー。じゃあボクも湊って呼んでね」
ちょっと小首をかしげて微笑むの姿に、こんなにも男っぽくない男には初めて会った、と複雑な感想を抱きつつも折角のクラスメイトと仲良くなれる機会を逃すわけにもいかない薫は、とりあえず話題を変える事にした。
「湊は同じ学年に知り合いとかいたりするか」
「うん、何人かはいるけど、どうしてだい」
「オレは同じ学年には知り合いがいないんだ、というわけで後々紹介してくれよ」
「え、そんないきなりナンパは良くないと思うよ」
「違うっての!女子紹介しろって言うんじゃなくて、ほら、童謡にも友達百人なんとやらってあるだろ。あんまり知り合い少なくて、ぼっちって言うんじゃ寂しいと思わないか」
「そうだねえ」
湊が思案顔でいると、黒ぶち眼鏡に七三分けの真面目そうなクラスの担任の紋切り型の挨拶が始まったので、何となく続いていた会話はお開きとなり、これからの学業生活の簡単な説明を待って入学式の一日は終了となった。
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