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粉雪
2月14日……
「ごめんなさい……」
一瞬、それが自分の口から出た言葉だと信じられなかった。
だけど、そのあとに続けた言葉は、少し前から何度も頭の中で繰り返してきた台詞だった。
「気持ちは嬉しいんだけど…………、俺は雪さんとはお付き合いすることはできません」
俺は視線のピントを雪さんからその背後のガラス窓へと移す。
そこには明るい店内が反射して映っているだけで、外の様子はまったく見えない。
さっき、外のごみ箱のゴミをまとめに出た時には粉雪がちらついていた。
今もまだ降っているだろうか。
「ううん、いいのよ。気持ちをちゃんと伝えておきたいって思ったのは私自身が前に進むためなの。だから寺嶋さんは気になんてしないで……」
俺の言葉の途切れをふんわりと受け止めるように雪さんが口を開く。
「それに、私ね、寺嶋さんとお話をすることが毎日の支えになってたから、それのお礼の意味もあって……。あ、だからチョコレートはちゃんと食べてね。ずいぶんと久しぶりに手作りしたから美味しいかどうかは保障できないけど、ね」
もし、「こんなオバサンやっぱりイヤよね」なんて自虐的なことを言われれば、決心が揺らいで想いを口にしてしまったかも知れない。
だから本当はコレでいいはずなんだけど、雪さんの思いやりある言葉には胸が締め付けられる。
「いただきます」
何とかそれだけを返すのがやっとだった。
俺は雪音さんのことが好きなんだ。
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