10人が本棚に入れています
本棚に追加
航輝はすき焼きの具材をひとりで持ち家に帰った。
「遅いわよ航輝。
ほんとに家出したかと思ったわ」
台所で洗い物をしていた母親が、航輝を見もせずに言った。
「……不思議な女の子を見かけたの」
航輝の母親はいつも手がはやい上に反応がぶっきらぼうだが、これでも心配されていることは航輝も気がついていた。
だからこそ、航輝は今日起きた話をしたのかも知れない。
「女の子?」
母親がそこで初めて航輝を振り返った。
「どんな子だったの?」
「えっとね……」
どういう風に不思議だったのかと航輝は思い返して、ふと気づく。
「豪華じゃないけどかわいい着物を着てて、黒くて長くてまっすぐな髪してたけど……全体的に不思議な雰囲気だったような……」
航輝が首を傾げながら言うと、母親も顎に手を添えて考え込んだ。
「着物の女の子って……人間じゃなさそうねぇ……」
航輝の母親は流石に由緒ある神社に嫁いだだけあり、霊体験などに否定的な意見は持たないが……
「その子、名前とか言った?」
母親は航輝に問いかける。
「あ……『椿』ちゃんだよ!
雪椿のそばに座り込んでたんだ」
無邪気に航輝が言うと、母親は顔面蒼白になった。
最初のコメントを投稿しよう!