椿鬼と宮家の少年

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 航輝はすき焼きの具材をひとりで持ち家に帰った。 「遅いわよ航輝。 ほんとに家出したかと思ったわ」  台所で洗い物をしていた母親が、航輝を見もせずに言った。 「……不思議な女の子を見かけたの」  航輝の母親はいつも手がはやい上に反応がぶっきらぼうだが、これでも心配されていることは航輝も気がついていた。  だからこそ、航輝は今日起きた話をしたのかも知れない。 「女の子?」  母親がそこで初めて航輝を振り返った。 「どんな子だったの?」 「えっとね……」  どういう風に不思議だったのかと航輝は思い返して、ふと気づく。 「豪華じゃないけどかわいい着物を着てて、黒くて長くてまっすぐな髪してたけど……全体的に不思議な雰囲気だったような……」  航輝が首を傾げながら言うと、母親も顎に手を添えて考え込んだ。 「着物の女の子って……人間じゃなさそうねぇ……」  航輝の母親は流石に由緒ある神社に嫁いだだけあり、霊体験などに否定的な意見は持たないが…… 「その子、名前とか言った?」  母親は航輝に問いかける。 「あ……『椿』ちゃんだよ! 雪椿のそばに座り込んでたんだ」  無邪気に航輝が言うと、母親は顔面蒼白になった。
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