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「……お母さん?」
母親の顔色が目に見えて悪くなる様を見て、航輝は問う。
「……椿鬼、ね」
母親は航輝のちいさな手から買い物袋を取り、晩飯作りに取り掛かる。
「……肉、落としたの?」
母親は肉が入っているトレーがひしゃげていることに気づく。
「あ、それはね……
椿ちゃんが『持つ』って言ってたけど神社の鳥居くぐる時に消えちゃって……」
「……そう」
航輝は喋ることに夢中で気づかなかった。
「その子と仲良くなっちゃったのね……」
母親がぼそりとつぶやいた言葉に。
「……航輝」
「なに?」
椿鬼と出会えたことを素直に喜ぶ航輝にとっては、とても残酷なことを母親は言った。
「明日から……椿鬼に会うのは禁止ね」
「……ぇ?」
航輝は理解できないといった表情をする。
「なんで……会っちゃいけないの?」
航輝の声が震える。
「椿ちゃんが人間じゃないから……じゃ、ないよね?」
「違うわよ」
航輝の言葉を否定し、母親は答えた。
「……彼女が悪い鬼だからよ」
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