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「よいではないか、よいではないか。ちこう寄れ、三人官女の娘らよ」
左大臣は還暦を迎えてもなお、若い女に目がなかった。
とはいってもお雛を除いた若い女など、三人官女の右娘と左娘しかいない。
しかもこの三人官女、お歯黒以外は双子なのか顔が瓜二つで、左大臣も度々名前を間違えた。
そもそも名前があったのかすら忘れていた。
「左大臣様、追いかけっこには飽きましたの」
「…わしもじゃ。何か新しい刺激が欲しいものよ」
「嫌ですわ左大臣様、私たちの美貌に刺激が足りないと?」
「いや、そのようなことは……」
「失礼しますわ」
「お帰り下さいまし。ここは色ボケ老人は禁制ですわよ」
追い出された左大臣は渋々段を降りた。その際五人囃子の一人、謳いのマツジュンと肩がぶつかってしまった。
「うひゃあ! …これ! 年寄りをいたわらぬか!」
「すみませぬ左大臣様! どうかお許しを」
謳いのマツジュンは即座に土下座をして許しをこうた。
「まぁよい、顔を上げよ」
ゆっくりと顔を上げた謳いのマツジュンの綺麗に整った顔と印象的な太い眉。
左大臣は一目見た瞬間、脳天に稲妻が走った。
左大臣の瞳に映る謳いのマツジュンには、太い眉が放つ男らしさの中に中性的な艶めかしさがあり、妙に左大臣をそそった。
「まさか左大臣様は男色であられるのか?!」
笛のサクライが新世界の扉を開けた左大臣に拒絶を示した。
「男色とは何色ぞ?」
大太鼓のアイバがとぼけると太鼓のオオノが言った。
「間抜けよ。三日三晩何も食わぬことをいうのだ」
「それを言うなれば断食のことであろう、間抜けはどちらじゃ」
小太鼓のニノが2人を笑った。
そんな4人をよそに、覚醒した左大臣は謳いのマツジュンに求愛をした。
「今宵、わしと楽しまないか?」
「サロンパス臭いので遠慮します」
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