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お内裏は高らかに笑った。
「とんだ庶民の夢物語。さすがはワライ上戸、笑わせる」
ワライ上戸はお雛にひざまずき、手を差し伸べると一世一代の台詞を言った。
「お雛様、私と、このワライ上戸と共にひな壇を出ましょう!」
「何を申されるかワライ上戸! お雛様がおらぬひな祭りなど何処にありましょうか!」
「肩書きなどいりません! 身分など必要ありません! 私たちには愛が……」
「ありません」
きっぱりと断られたワライ上戸はナキ上戸なみに泣いた。
「お雛様ぁ!!」
「先ほどから叫んでばかり。あなたは子供ですか!」
「ボクは!」ワライ上戸はめげずに次なる行動に出た。
「ひぃい!?」お歯黒がまたも反応した。
ワライ上戸は自ら頭を引っこ抜いて武田鉄矢っぽくお雛に叫んだ。
「ボクは、しにましぇん!!」
ワライ上戸の奇行を一部始終見たお内裏は失笑した。
「こやつは気でもふれたか!?」
「ワライ上戸……」
お雛はにわかに顔が赤く火照っていた。こんなにも一途に想いを告げられたことは一度もなかったからだ。
「ゆきましょうお雛様ぁ!! 僕らだけのひな祭りを歌いにぃ!!」
「……お内裏、すみません!」
お雛はついにワライ上戸の手をとった。
「お雛! 許されると想うか! 最下段と最上段の格差が!」お内裏が杓を振りかざした。
「ぬっ!?」その瞬間、お内裏の喉元に鋭利な刃が向けられた。
「何のまねだ左大臣!」
お上に刃を向けたのは忠犬であるはずの左大臣だった。
「さむげたんと最上段の格差を超えた恋路があっても……よいではないか」
尚も引かないお内裏にもう一つの刃が現れた。
「右大臣、貴様もか!」
「左に同じく……。お内裏、今の台詞、まるでカエサルのようですな」
「カエサル? どこのサルぞ?」
「見ざる聞かざる言わざるカエサルか?」
「一昨年のBSハイビジョンで流れておりました」
「…知らぬ」
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